◆2007/12
何を食べればいいのか?
〜『中国の危ない食品』という危機から中国は抜け出せるか〜
世界中、中国人がいるところには必ず中華料理店がある。
近代化に遅れた中国が、唯一国民に誇りを持たせるに値するものは「料理王国」「グルメ大国」と世界で称えられてきた、悠久な食文化であるといえる。
かつて孫文(中華民国の父)が、「中国の飲食の進化は、いまなお他の文明諸国が及ばないところである。 中国の開発した食物は欧米より多いし、中国調理法の精密さには、欧米諸国が遠く及ばない。」と断言した。
また、中国には、「民は食をもって天となす」(民以食為天)という諺があるほど、食は人間にとって、生存するうえでの第一条件であり、人生の一番の楽しみであると考えられている。
ところが、経済成長著しく、世界的にも注目されている中国は、現在、実に多くの問題を抱えている。中でも、2007年における最大の中国関連ニュースは、やはり「食の安全性への疑問」である。
2007年10月に、中国の食品汚染を明らかにした『中国の危ない食品』(周勍著 原作名:「民以何食為天」寥建龍訳 草思社)が日本で翻訳出版された。
著者周勍氏は北京在住のジャーナリストで、4年にわたり中国の食品の安全問題を取材し、その恐るべき実態とその社会的背景に鋭く迫った。 原作は2006年度のドイツ「ユリシーズ国際ルポルタージュ文学賞」佳作となった衝撃の報告である。
周勍氏は本書で1987年から2004年の間の食をめぐる重大事件を25件リストアップし、さらに2005年から2006年の間に起きた食品の安全にかかわる大事件を14件列挙している。
その内容を見ると、A型肝炎の流行、ニセ酒、農薬残留の野菜、食用油、フグの乾物、肉赤身化剤使用豚肉の食用、変質豆乳、粗悪米、ニセ卵、ニセ醤油による中毒事件など、実に惨憺たるありさまである。
そして、現在の中国の食品安全問題の特徴を5つ挙げた。
1.有毒有害物質を使用した加工食品は、とくに乾物と水産品で突出している。
2.食品添加物の使用基準超過は、特に豆製品が突出している。
3.一部の食品の衛生は、かなり憂慮の状況にある。
4.一部の食品、なかでも乳製品の栄養指標と成分含量は要求に達していない。
5.食品表示は基準に合わない。防腐剤、着色料、甘味料の具体名称が表示されていない。日付、含有量の表示はあっても間違いだらけ。
近年、世界はグローバル化し、それに伴う食品貿易のグローバル化により、ある国の食品汚染は容易に他の国へと拡大する。 ロシア、台湾、ヨーロッパ、日本で中国製の汚染食品が次々と発覚し、今年に入ると、周知のようにアメリカのペットフード事件が起き、「中国の食品問題」は再び世界の注目を浴びることになった。 「中毒になったり、中毒死したのが数千匹のペットではなく、アメリカの人々であったらと、考えただけで寒気がする。このままでは中国だけでなく世界中に危険をもたらす。」と周氏はコメントしている。
ある研究者は「中国の輸出品の品質問題は、経済や法律の問題というだけでなく、商業倫理にかかわる問題である。過去20年にわたって、政治倫理、社会倫理、商業倫理が急激に悪化している。品質劣化は、このような社会状況を反映したもの。」と指摘した。
金が儲かるなら手段を選ばないという風潮は、なぜ止まらないのか。 マルクスが資本の原始蓄積で説明したように、「適当な利潤があれば資本は大胆になる。資本は、10%の利潤があれば、いたるところで投資される、20%なら暗躍してくる、50%なら危険を冒す、100%になると一切の法律を無視する、300%となれば、罪を犯す・・・」。
この理論によると、この問題はどの国においても経済発展の途上では避けられない問題となってしまう。利益追求のため、生産性向上追求のため、品質管理がおろそかにされ、安全基準が下げられることになる。その結果、商業道徳の喪失、行政の腐敗、そして食品の安全が失われることになったのだ。
本書を閉じた瞬間、同じ中国人として、この信じがたい事実が心に焼き付いた。驚き、怒り、そして悲しみを隠すことができなかった。日本で10年も生活してきた私は、食の安全に対する不安はあまりないが、中国にいる両親のことを考えると、
毎日何らかの形で「毒」を飲み込んでいるのではないかと、心配で居ても立ってもいられない気持ちになる。
日本でも偽装表示や偽装食品問題が起きている。また食の不祥事も起きている。しかし日本では、教育及び取締りや社会的制裁によって解決されたり、改善されたりしている。政府や農薬製造企業、食品添加物製造企業などの関係業界団体が啓蒙書を出版し、講習会を開催している。
これに対し、寥建龍のインタビューに応じた周勍氏の回答は「中国には取締りがあるだけで、教育と社会的制裁はないし、啓蒙書もない」であった。
「食品安全の問題は、国家の安全戦略の問題である。制度面から解決する道を探さない限り、さらに誰も信用しない社会と権力者の汚職がなくならないかぎり、食品安全の問題は決して解決されない。」と周勍氏は本書の最後に強調している。
中国は今や、世界の製造業の中心であり、「世界の工場」から「世界の市場」へと変貌しつつある。そして、世界的な貿易大国だと称している。WTOの報告では、中国はドイツに次いで世界2位の輸出大国であるが、食品の安全性の問題は、貿易大国にふさわしくないとの指摘もなされている。
「中国の特色ある社会主義を建設する」という理論は、中国の改革開放の立役者・ケ小平氏が提出したものである。どうか、中国の国民1人1人は、「偽物天国」という「特色ある社会」にならないよう、民族の存亡にかかわる食の安全に対して責任と義務を持って頂きたいと願うものである。
※参考図書:『中国の危ない食品』(周勍著 原作名:「民以何食為天」寥建龍訳 草思社)
(劉)
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